緊張によって不安症状が現れる

誰でも人前に出たり、恥ずかしいと思ったら、緊張したり、不安になったりします。人に見られていると思うと、いつもできることがうまくできなかったりします。

また、汗をかいたり、心臓がドキドキしたり、体が震えたり、顔が赤くなったりといった不安による身体症状があらわれることもあります。

こうした不安・緊張状態によって、身体に変化が生じるのは自律神経系のうちの交感神経の働きが活発になることで、からだにいろいろな反応が起こることが原因です。

しかしこうしたからだの反応は人によって程度が異なります。

人前でもまったく緊張していないように見える人もいます。

社会不安障害

社会不安障害/社交不安症(SAD Social Anxiety Disorder)とは、人に接する場面で強い不安を感じてしまい、人前に出たり、人と接することを避けてしまう病気です。

「恥ずかしがり屋という性格なのでは?」「慣れれば平気になるのでは?」と思われがちですが、医学的にも病気と認められていて、日常生活において困難が生じてくる不安障害群/不安症群という精神疾患のカテゴリーの中のひとつです。

不安障害群には、社会不安障害の他に、パニック障害、限局性恐怖症、全般性不安障害、分離不安障害が含まれています。

不安障害とは、必要以上に、過剰な不安を感じてしまい、「悪いことが起きる」と怯えたり、不安を感じる行動を避けたり(回避行動)してしまう病気です。

社会不安障害は、不安障害の中でも、人前に出る場面、人と接する場面などに強い不安を感じる病気です。

病名の移り変わり

「社交不安症」という病名については変遷があります。

日本では古来、「対人恐怖症」と呼ばれていました。

その後欧米でも研究が進み、Social Phobia、さらに、Social Anxiety Disorderと呼ばれるようになりました。

これを日本語訳に翻訳して、かつては社会恐怖、社会不安障害と呼ばれていたのですが、「社会不安」という言葉には誤解も多いため、社交不安障害に改められ、現在は、社交不安症/社交不安障害(社交恐怖)と呼ばれるようになりました。

患者さんそれぞれの症状から、赤面恐怖症、視線恐怖症、脇見恐怖症といった呼び方が使われている場合もあります。

今後は医療機関での呼び方は、「社交不安症」に統一されていくでしょう。

社会不安障害で世界中の人が悩んでいる

日本人は一般的にシャイな民族といわれています。

ですから、社会不安障害患者の数も海外に比べて多いのでは?と思うと、実は患者数は米国の方が多いという統計データがあります。

アメリカでは全人口の約6.8%が社会不安障害に罹患しているという調査があります。

意外な感じもしますが、日本は「恥の文化」という国民気質が受け入れられているので、人前で恥ずかしがることは一般に広く理解されやすいと考えられます。

アメリカのように、日本より「自分の意見を堂々と言う」ことが当然視されている文化圏では、社交不安を持つ人がさらに辛い思いをし、日常生活で困って、助けを求めるということが、患者数の多さの背景にあるという可能性が考えられます。

逆に日本のように、「恥ずかしがり屋」「引っ込み思案」が受け入れられやすい環境では、社交不安が病気だと気づかれにくいのかもしれません。

患者数が少ないからといって、社交不安に悩んでいる人がすくないと断定することはできません。

社会不安障害の患者は若い人が多い

そうした文化的背景の違いからアメリカなどの諸外国と単純比較はできませんが、日本では、社会不安障害は一般人口の0.7%がこの病気を持つという研究があります。

これも高い有病率です。

また発症する年齢が10代の半ばから20代前半と若いことも特徴です。

思春期は、自我の目覚めの時期です。

他人の目に映る自分の姿が、幼少期、児童期よりも重要な問題になってくるのです。

こうした時期に、対人場面でのつまづきがきっかけとなって過剰な不安感につながることがあるのです。

また、発症年齢が若いという特徴から、社交不安が自分の性格、欠点などとして片付けられてしまい、治療することが可能な心の病気であることが数年以上にわたって見過ごされてしまうことが多いのです。

社会不安障害という病気の認知が広まってきてはいますが、まだ十分とは言えません。

本人のみならず、家族や学校の先生、友達など周囲の人が、病気に気付いてあげることが大切です。

また、社会不安障害は若い人だけが発症するわけではなく、成人になってから発症する場合もあります。

社会不安障害の人は、他の精神疾患(うつ病、その他の不安障害、アルコール依存症)を併発することも多いのです。

放置せず、積極的に対処しなくてはなりません。

※参考文献:自分で治す「社交不安症」 清水栄司著