社会不安障害を認知行動療法で改善するためには
認知行動療法が、偏った認知や行動をバランスの良いものにしていく治療法だということでした。
自動思考
ところで社会不安障害の人が持っている「偏った認知」とはどんなことでしょう?
スピーチが苦手なAさんの例で見ていきましょう。
Aさんはスピーチの前に自然に
「声が震えてしまう」
「上手く話せないだろう」
「他の人はうまくスピーチするのに、自分だけは下手だ」
などと考えてしまいます。
スピーチという対人場面とネガティブな考えが強く結びついているのです。
ネガティブな考えによって、スピーチに対する不安がますます強くなってしまっています。
このように、もの物事に対して自動的に浮かんでくる考えのことを「自動思考」と言います。
自分の自動思考がどんなものであるかを検証することは、認知行動療法の第一歩です。
信念(スキーマ)
そしてAさんの自動思考の根底には、どんな考えがあるのでしょうか。
そしてそれは、本当に妥当なものでしょうか。
・そもそも、スピーチのときに声が震えてしまうのはいけないことなのでしょうか?
・Aさんはスピーチが本当に下手なのでしょうか?
言うまでもなく、スピーチにおいて評価されるべきものは、話し方だけではありません。
取り上げるテーマや、内容、伝えようとする熱意など、ほかにも評価されるポイントがたくさんあります。
しかし、Aさんはそうしたところはあまり重要視せず、外見的な話し方にばかり気を取られ、声の震えの有無を過大に評価し、自信を失っているように見えます。
こうしたネガティブな発想のもとにある「緊張した様子を他人に気付かれてはいけない」「話し方がうまくなくてはいけない」という思い込みのことを「信念」と呼び、
信念が構築されている状態をスキーマと呼びます。
不安の原因に、こうした偏った信念がないかを検証してみる必要があります。
安全確保行動
スピーチに自信のなかったAさんは、下を向いてスピーチをしています。
Aさんは「下を向く」「アイコンタクトを避ける」という行動で、自分が不安な表情や目つきをしていることを他人に気付かれないように隠そうとしているのです。
不安を感じる場面で、安全を最優先する行動を認知行動療法では「安全確保行動」と呼びます。
本人は、一時的にであるにしろ、不安を和らげるために必要な、役に立つ行動だと考えているのですが、長期的に見ると、ますます不安を大きくしている不適応行動なのです。
Aさんにとっては、「下を向いて話すこと」ことで、自分が不安な表情や目つきをしていることを隠そうとしているのですが、実際には、下を向けば向くほど、声は出しづらくなりますし、Aさんは、自分の前にいる他の人の実際の表情や目つきを見ることができないので、「他人が自分を見て笑っているにちがいない」という想像がどんどん膨らんでいってしまいます。
また、スピーチの時に下を向いているのは、他人から見ると不自然に見えますので、教師に注意されてしまい、逆に不安感が目立ってしまう結果となりました。
このように不安なことを隠そう、避けようという行動が、不安感を悪化させるという逆効果につながっているのです。
不安には、正面から立ち向かうことが効果的です。
このような安全確保行動については、本当に有用な行動なのか検証する必要があります。
注意
Aさんは、スピーチの間「みんながあきれて笑っているに違いない」と思っていましたが、それを確かめることができるほど、みんなのことを見ていたでしょうか?
みんなの反応が最大の不安要素だったにもかかわらず、実はAさんは下を向いて、みんなのことを観察していませんでした。
ずっと不安症状を抱える自分自身に注意が向いていたのです。
意外な気がするかもしれませんが、社交不安の人は、他人より自分に注意を向けてしまっているのです。
他人が本当にどんな反応をしているかを観察するのではなく、自分がどう見られているか?こんな自分は他人からどう思われるか?という想像に注意が向いていたり、自分の声の震えや顔の熱さなどの感覚に注意がむいていることが多いのです。
自分に注意を向けてしまうと、自分の声の震えや、赤面などがどうしても気になり、余計に不安が増大してしまいます。
もしAさんがスピーチをうまく行おうと思うのなら、自分の注意を他者に向け、その反応を確かめ、反応に応じて行動を変えていくのが合理的ではないでしょうか?
注意を向ける先が、自分にばかり偏っていることに気付いたら、他人にも向けるようにすることが理にかなっています。
注意のバランスを検証してみることも、認知行動療法のプロセスの一つなのです。
通常は治療者と行う
基本的な認知行動療法は医師や臨床心理士などの治療者とマンツーマンで行います。
場合によってはディスカッション形式など、グループで行う場合もあります。
治療(セラピー)を開始する前に、LSAS-Jなどを用いて社会不安障害の症状評価を行います。
毎週1回、50分ほどのセッション(面談形式の治療)を16~20回ほど行うのが一般的です。
最後に再び症状評価を行い、治療の効果を判定します。
社会不安障害に対して行われる認知行動療法と、うつ病に対して行われる認知行動療法は、もとになる考え方は同じですが、疾患が異なる特徴をもつので、治療の手順も大きく異なります。
認知行動療法のセッションでは、毎回話し合うテーマ(アジェンダ)を決め、そのテーマを解決する為の方法について習得するようにしていきます。
それらに取り組んでいく間に、バランスの良い認知と行動のためのスキルが身に付き、また自分の認知と行動の偏りをチェックすることができるようになります。
進め方はつぎのようになります。
認知療法のセッション(毎週一回)の例
1.社会不安障害と認知行動療法について学ぶ(心理教育)
↓
2.対人場面での認知、行動、感情、注意のパターンを分析(ケース・フォーミュレーション)
↓
3.行動の偏りとバランスの確認
↓ 自分の行動のクセを知る
4.認知の偏りとバランスの確認
↓ 自分の考え方のクセを知る
5.注意の偏りとバランスの練習
↓ 自分の注意のクセを見直す
6.対人場面での行動実験
このひとつひとつのセッションの間には、患者さん自身が次のセッションまでに行う「宿題(ホームワーク)」があります。
毎週一回のセッションの間で、宿題に取り組むことで、より理解を深め、スキルがしっかり定着します。
※参考文献:自分で治す「社交不安症」 清水栄司著