<社会不安障害><社会不安>を感じると、どうして<身体反応>が起きるのだろうか?

つまり、どうして顔が赤くなったり、手が汗ばんだり、身体が震えたり、声がうわずったりしてしまうのだろう?

実は、不安を感じた時に<身体反応>が現われるのは生物学的に意味のあることであって、決しておかしなことではないのである。

まずはこのことを、きちんと理解しておいてもらいたい。

たとえ不安な時に顔が赤面しても、それは当然のことなのだという事を・・・。

では、どうしてそんなことがおきてしまうのだろう?

このことを理解するには、まず<ストレス反応>のメカニズムについて知っておく必要がある。不安を感じた時に<身体反応>が現われるというのは、要するに<ストレス反応>にほかならない。

私達は、ストレスがかかる状況に置かれると(つまり、不安を感じること)、その状況に立ち向かおうとして身体が自然に反応するしくみになっている。

つまり、私達の体内でアドレナリンのような化学物質やホルモン物質が分泌され、その結果として、鼓動が激しくなったり、呼吸がはやくなったり筋肉に大量の血液を送ろうとして筋肉が緊張したりするのだ。

こうして私達の身体は、行動に移るための準備をするのである。

こうした反応は、人類の「生命維持」、さらに言うなら「種の保存」に関わる根本的なものである。

なぜなら、私達の祖先は、不安を感じたら、すぐに「逃げるか、戦うか」しないと生き延びることができなかったからだ。

彼らにとっての不安を感じる状況とは、トラやライオンなどの捕食動物や他の部族の人間から、命を狙われることだった。

だから彼らは、すぐにでも逃げたり戦ったりできるよう、身体が準備をするようになったのである。

それは、人間以外の動物でも同じことだ。

動物のなかには、不安を感じると、体毛が逆立ったり、身体の色が変わったり、あるいは身体の一部が膨らんだりするものがある。

おそらく、自分の身体を実際以上に大きく強く見せることで、敵を威嚇して追い返そうとしたのだろう。

とにかくこういった理由から、不安を感じると<身体反応>が起こる、というメカニズムが作られてきた。

その結果として、不安=「生命の危機にさらされること」ではなくなった現代においても<身体反応>だけはのこってしまったのだ。

要するに<社会不安障害><社会不安>を感じた時に顔が赤面しても、それは決して不自然なことではないのだ。

それに加えて、適度な<ストレス>を受けるというのも、決して私達の役に立たないわけではない。

たとえば、俳優や講演者のなかには、ある程度の<ストレス>を受けていないと、すなわち不安を感じていないと、うまく実力が発揮できないという人がいる。

動悸が激しくなったり、身体がほてったり、顔が赤くなったりといった、不安から生じる<身体反応>が、自分に打ち勝って実力を最大限に発揮するのに、格好の刺激になるというのだ。

このことを証明する調査結果もある。

不安とパフォーマンス(実力の発揮)の関係性を調べた「ヤーキースとドットソンの正規分布曲線を見て欲しい(図2-1)

ゾーン1:あまり不安を感じてないので、緊張感がなく、やる気が湧かない。その結果、あまり実力が発揮できない。

ゾーン2:適度に不安を感じているため、緊張感が生まれ、やる気が奮い立たされ、実力を十分に発揮できる。

ゾーン3:非常に強い不安を感じているので、極度に緊張してしまい、あまり実力が発揮できない

図2-1不安とパフォーマンスの関係

これによると、私達はある程度の不安を感じることで、パフォーマンスを高めることができる。

つまり、適度な不安は、私達のやる気を奮い立たせ、実力を発揮させるのにおおいに役立つのである。

実際、スキー選手、バスケットボール選手、クロスカントリー走者などのアスリートたちを対象にした別の調査によると、<自信>、<緊張>、<不安>のいずれもが適度に高いレベルに達している時に、もっともよい成績が出せることがわかっている。

ただし、私達が受けるストレスがあまりにも大きすぎると、逆にパフォーマンス(実力の発揮)は低くなってしまう。

つまり、私達がすべきことは、不安を完全になくすことではなく、その不安を適度な大きさにとどめることなのだ。

不安による<身体反応>を自覚して、それをうまくコントロールする。

それこそが、現代社会において、私達が自分の能力を最大限に発揮するのに、もっとも有効な方法だといえるだろう。

最後にもうひとつ、不安から生じる<身体反応>が、現代より受け入れられていた時代のことにも触れておこう。

フランスでは中世から十九世紀にかけて、たとえ不安や緊張のせいで身体に何らかの反応が現われても、それが「弱さの証」だとか「傷つきやすい気質」だとはみなされなかった。

たとえば、ロマン主義が盛んだった十九世紀には、「すぐ顔が赤面する」伊達男なんかごまんといたし、中世の騎士たちは、ちょっとしたことですぐに「気絶しそう」になったのだ!

とはいっても、もちろん、今日ではそういうわけにはいかない。

前述したように、面接試験を受けていて、赤面したりしゃべれなくなったりすれば、それだけで個人的な欠陥だとみなされてしまう危険性がある。

これこそがまさに<社会不安障害><社会不安>を感じる人々がもっとも心配し、怖れていることなのだ。

また、たいへん不公平なことではあるが、これらの症状は、女性よりも男性のほうが受け入れられにくい、という事実もある。

たとえば、女性の赤面症は「かわいい恥ずかしがり屋さん」として認めてもらえることもあるのに、男性の場合、多くは「男らしくない」とか「頼りない」と切り捨てられてしまう・・・。

とにかく、いずれにしても、不安を感じた時に<身体反応>が現われるのは当然のことであり、ときには必要なことでもあるので、あまり深刻に考えすぎないことをおすすめしたい。

※参考文献:他人がこわい あがり症・内気・社会恐怖の心理学
      クリストフ・アンドレ&パトリック・レジュロン著 高野優監訳