社会不安障害の心理療法
ここでは、<社会不安障害>の心理療法について簡単に触れておきたい。
まず、<社会不安障害><社会不安>を改善するための心理療法は、「精神分析療法」と「認知行動療法」の大きく分けてふたつに分けられる。
ただし本サイトでは、認知行動療法のほうを推奨し、そちらを詳しく取り上げていこうと思う。
では、認知行動療法とはどういうものなのだろう?
どうしてそちらの治療法のほうが望ましいのだろうか?
社会不安障害の認知行動療法
認知行動療法とは、その人のものの見方(認知)と行動様式を変えるための治療法である。
<社会不安障害><社会不安>を含む多くの心理的な障害は、非合理的な行動や考え方が身について、どうしてもやめられなくなってしまうことを原因としている。
だからこそ、認知行動療法は<社会不安障害><社会不安>の改善に広く用いられていて、さまざまな研究によって有効性も証明されているのだ。
いっぽう、精神分析療法で重視されている「その障害が起きた理由の解明」は、認知行動療法では二の次とされている。
認知行動療法の理念においては、「たとえ理由を探し当てたところでその障害が改善されるとは限らない」とされているためだ。
一部の医師たちの間で言われているような、「理由がわからないままだと、治療終了後にリバウンドが現われたり、別の障害が生じたりする」という考え方も、今のところいかなる研究によっても正当性は証明されていない。
つまり、<社会不安障害><社会不安>を改善するには、その人の幼少時代の記憶や深層心理を探っていくより、もっと具体的で現実的な部分にはたらきかけるほうがずっと効果的なのである。
だが、この点に関しては、精神分析療法派と認知行動療法派の人達の間で、これまで長い間意見の対立があったことは事実である。
精神分析医療法派が、「どうしてそうなったのかがわからないまま症状だけ治しても、ちょっとしたきっかけで再発するに決まっている」と言えば、認知行動療法派は、「それならあなたたちは本当に原因を取り除いていると言えるのか?
治療の効果の有無を判断する基準さえ定められてないくせに」と反論する。
ただ、この論争はそろそろ終息に向かいつつあるようだ。
今後、<社会不安障害><社会不安>の治療はどうなるのか、いずれかに統一されるのか、症状別に使い分けるのか、あるいはまったく別の療法が現われるのか・・・おそらく近い将来に結論が出るに違いない。
実際、精神分析療法そのものも変化の途上にある。
対人関係療法、、行動療法を取り入れたもの、それにさらに催眠療法の技術をもりこんだものなど、精神分析療法にもさまざまなバリエーションが誕生しているのである。
しかし、とりあえず現時点において<社会不安障害><社会不安>の改善に関しては、認知行動療法の信頼性がもっともたかいことは確かである。
医師と相談者との間に高い信頼関係や協力関係を築いていくやり方が、おおいに支持されているのだ。
精神分析療法においては、医師はあえて相談者と一定の距離を保ち、あくまで中立的な立場を維持し続ける。
反対に、認知行動療法においては、医師は相談者に積極的に関わっていかなければならない。
たとえば、相談者に対して障害のメカニズムを詳しく説明したり、治療法について話し合ったり、相談者の疑問にわかりやすく明確に答えたりすることが必要とされる。
場合によっては、経過次第で別のやり方を試してみたり、最初に決めておいた方針を捨てて別の方法を提案してみたりといった、臨機応変な対応も求められる。
いずれにしても、どういう治療プログラムを行うかは、医師が一方的に相談者に押し付けるのではなく、相談者と医師が一緒に話し合って決めていくのである。
そして最終的には、カウンセリング期間中に覚えたやり方を、日常生活でも相談者にひとりで実践してもらう。
これは、カウンセリングが終了した後も、相談者に好ましい習慣をつけてもらうためである。
おそらくこの療法のこういうやり方が、その後もリバウンドを起こすことなく、効果が長続きする理由のひとつなのだろう。
もちろんそのためには、相談者自身が積極的に治療に取り組み、きちんと自己観察をしたり、自分自身について深く考察したりしなくてはならないのだが。
薬物療法と心理療法の併用
薬物療法には心理面でのサポートを併用するのが望ましい、ということはすでに述べた。
つまり、薬物療法を行っている人を、精神的にバックアップし、随時適確なアドバイスを与える存在が必要とされるということだ。
それに、薬剤に期待できるのは、障害を取り除くことではなく、感じる不安を軽くすることだけである。
いや、もちろんそれだけでも<社会不安障害><社会不安>を乗り越える大きな一歩となるだろう。
しかし、同じ状況に遭遇するたびに繰り返される<社会不安障害><社会不安>は、非常に深く根を下ろしているため、これを完全に克服するには、別の行動様式や考え方を身に付けるしかない。
そのためにも、心理療法は非常に有効な手段なのである。
逆に、心理療法を行うにあたっても、その開始時に薬剤の力を借りる必要が生じることも少なくない。
とくに重度の<社会不安><社会不安障害>の場合、薬物療法と心理療法を五分五分で並行して行うことがある。
つまり、薬物療法と心理療法を「どちらがより優れているか」と対立されるのではなく、双方の特徴をよく知った上で併用することこそが、もっとも高い効果をもたらすやり方になるのである。
ちなみに、抗うつ剤MAO-Iによる薬物療法と、グループでの認知行動療法の効果を比較した研究では、短期間では薬物療法のほうが高い効果が見られたが、中~長期間においては心理療法のほうが効果が高かった。
認知行動療法の実践方法
では、認知行動療法はどのように行うのだろうか?
実は、認知行動療法で行われる内容は、薬物療法を併用するかどうかにかかわらず、たいていの場合はほぼ同じである。
この療法におけるセラピストの使命は、<社会不安障害><社会不安>に悩む人が苦手な状況に積極的に立ち向かい、対人関係を改善していけるようサポートすることである。
重要なポイントは全部で三つ。
1.逃げ出さないこと、
2.上手なコミュニケーションのしかたを学ぶこと、
3.ものの見方や考え方を変えること。
そこでこれら三つの点についてひとつずつ詳しく見ていこうと思う。
※参考文献:他人がこわい あがり症・内気・社会恐怖の心理学
クリストフ・アンドレ&パトリック・レジュロン著 高野優監訳