恐怖する状況に直面すると、社会不安障害の人には「不安反応」と呼ばれる反応が起こります。
まず、主観的な不安を感じます。
その焦点は、
1.他人にじろじろ見られるのではないか(観察されたりさらしものになったりするのではないか)
2.恥をかいたり侮辱されたりする結果になるのではないか
ということです。
自分が何かバカなことを言ったり、うまく話せなくなってしまったり、固まってしまったり、大失敗をして評判を損ねたりするのではないかと想像することもあります。
つまり、社会不安障害の人の不安の本質を簡単に言うと、人からのネガティブな評価を恐れるということになります。
「人から批判されるのではないか」と明確に自覚していることもあれば、単にあいまいな不安として感じていることも少なくありません。
社会不安障害の人は一般に「自意識過剰」などと言われるものですが、ネガティブな評価という面でのみ敏感な「自意識」を持っていると言えます。
そして、「自意識過剰」と言われることも一つのネガティブな評価ですから、「自意識過剰」と言われないように、と自意識過剰になる・・・という悪循環に陥っています。
主観的な不安の他に、身体症状が起こることも多いです。
たとえば動悸、発汗、震え、胃腸の不快感、下痢、筋肉の緊張、赤面、ほてり、足の冷感などです。
身体症状の著しい例としては、パニック発作(動悸や息苦しさなどが起こり、このまま頭がおかしくなるのではないか、本当に死ぬのではないかと思うような発作)が起こる人もいます。
パニック発作だけでなく、身体症状は全般に、その状況における不安を増すことが多いです。
「相手とのやりとりのなかで自分が恥ずかしいことをしてしまうのではないか。
その結果として相手からネガティブな評価を受けるのではないか」という「本来の」不安以上に、「不安反応としての身体症状が他人に気づかれるのではないか。
その結果として相手からネガティブな評価を受けるのではないか」という不安に焦点が当たることになります。
何と言っても、身体症状は目に見えるものですし、基本的には自分でコントロールすることができません。
ですから、社会不安障害の人が身体症状をとても気にするのも当然のことであると言えます。
そして、一般に、不安反応をきにすればするほど、不安が強まり、不安反応そのものもひどくなる、という悪循環が成立する。
身体症状は、不安によって自律神経系のバランスが変わることで起こります。
簡単に言えば、その状況を「危険」と認識したときに生物としての人間に起こる反応にすぎず、本来はその「危険」から逃れるために身体の機能を集中させるシフトなのです。
身体症状そのものに病的な意味があるわけではありません。
ポイントは、その状況を「危険」と認識した、というところにあります。
わかりやすくいうと、「危険」に対する不安反応そのものは適切だけれども、「危険」のセンサー(感知器)が少しずれてしまっている、という感じなのです。
本当は危険ではない状況なのに「危険」というセンサーが働いてしまって、身体が「危険対応モード」になってしまうのです。
たとえて言えば、キッチンの火災報知器の調整がずれてしまって、ちょっと魚を焼いただけなのにサイレンが鳴るというような状況です。
このときの修理方法としては、サイレンが鳴らないようにするのではなく、センサーを調整するはずです。
本当の火事のときにサイレンが鳴らないと困るからです。
社会不安障害も同じことであり、対人状況を「危険」と感じるセンサーを調整することが適切な対応になります。
つまり、本当は危険でない状況に危険を感じなくなるにつれて、だんだんとおさまってくるのです。
サイレン(不安反応)が修理を必要としているわけではない、と考えるとわかりやすいと思います。
なお、不安反応、特に身体症状はその状況をより危険なものに感じさせることが知られています。
たとえば、人前で話そうとすると頭が真っ白になる、というような症状を持つ人は、「だから人前で話すことは恐ろしい」と思うのです。
でも、キッチンの火災報知器にたとえてみれば、魚を焼いたらサイレンが鳴った、「だから今起こっていることは火事なのだ」と思っているのと同じことになります。
繰り返しになりますが、調整すべきはセンサーのほうです。
人前で話すことの「危険」度を、実際に試してみながら検証していけばよいのです。
頭が真っ白になるのは、サイレンはこわれていないという証拠と考えるとよいかもしれません。
ちなみに、なぜ頭が真っ白になるのかというと、おそらく、強すぎる不安の感情から心身を守るためなのではないかと思います。
その状況に踏み止まっているとストレスが強すぎるようなときに、よく頭は「真っ白」になります。
そういう意味では、サイレンは壊れていないけれども、その発動のタイミングを決めているセンサーは調整が必要だということです。
※参考文献:対人関係療法でなおす社交不安障害 水島広子著