よく知らない人がいる状況であがったり内気になったりすることは、ごくふつうに見られることです。
そのことがその人の人生を振り回すほどの問題になっていたり、本人の苦痛がよほど著しかったりする場合を除いては、社会不安障害とは診断されません。
かなり内気であっても、あまり生活のさまたげになっていない人もいます。
たとえば、裏方の仕事や技術職の仕事を選び、少数の親しい友達や家族とだけつきあっていたり、外向的な配偶者が温かく支えてくれていたりするような場合です。
そのような人は自分が内気であることに気づいているかもしれませんが、深く悩んでいるわけではなく、自分は単にそういう人間なのだと受け入れていることでしょう。
治療を求めようとはしないでしょうし、その必要もないと思います。
社会不安障害の発症は環境との兼ね合いで決まってくるところもあるのです。
一方、限局性の社会不安障害を持つ人のなかには、決して内気ではなく、不安の対象となっている特定の状況以外では外向的で、親しみやすく、自分を持っているような人も多いのです。
そういう人は一見したところ社会不安障害とはわからないはずです。
それなら苦しくないのかと言えばもちろんそんなことはなく、「外向的で、親しみやすく、自信を持っている」自分のイメージを崩さないように嘘に嘘を重ねなければならないことも多く、多大なエネルギーを使いますし、嘘に嘘を重ねている自分が情けなく感じ自己肯定感をどんどん低下させてしまうのです。
なお、子どもの場合は、よく知らない大人と接するときに社会不安を示すことはむしろふつうであり、子ども同士のときにもはっきりと社会不安が認められない限り社会不安障害とは診断されません。
また、アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-Ⅳ-TR)では、十八歳未満の人の場合には、その症状がすくなくとも六か月間続いていなければ社会不安障害とは診断しないということになっています。
思春期とはいろいろな不安が揺れ動く時期であり、「自己」というものを意識するようになりながら大人になっていく時期だということを考えれば、納得のいく基準でしょう。
※参考文献:対人関係療法でなおす社交不安障害 水島広子著