社会不安障害の治療において重要なポイントは、対人関係上の不一致が自分だけのせいでないということを理解してもらうことです。

何でも他人のせいにする人も問題ですが、社会不安障害の場合の問題は、何でも自分のせいにすることです。

男性会社員であるホタカさんは、上司と一緒の会議に出席すると症状が著しくひどくなりました。

どんな上司かということをよく聞いてみると、パワーハラスメントと呼んでもよいくらいに批判的で感情的な上司のようでした。

そのような状況では、不安が強まるのはむしろ当然のことでしょう。

社会不安障害を持つホタカさんは、その状況でひどい不安を感じるのは自分がおかしいと思っていましたが、「自分がおかしい」と感じることそのものが社会不安障害の症状なのだ、ということを繰り返し説明しました。

つまり、そんなにひどい上司と一緒の会議に出れば誰でも不安や恐怖を抱くものであって、そう感じない人のほうがおかしいということを理解してもらったのです(このことは後で同僚に「会議はいやだな」と話しかけることによって、同僚も同じように感じていることを知ってもらいました)。

ひどいことを言われたら、恐怖を感じたり委縮したりするのは人間として当然のことだということを知っていくのは大切なことです。

ホタカさんの上司の場合などは、ほとんど「相手のせい」と言える状況でしょう。

なかには、「お互い様」という状況もあると思います。

たとえば、社会不安障害の人によく見られるケースとしては、自己主張しないので相手が図に乗る、というものがあります。

そういう場合は確かに、少なくとも相手との関係においては「お互い様」と言えるでしょう(本人は社会不安障害という病気を抱えているわけですから、本当の意味では「お互い様」とも言えませんが)。

いずれにしても、社会不安障害の人が考えているように「すべては自分のせい」などという人間関係はないと言っても過言ではありません。

※参考文献:対人関係療法でなおす社交不安障害 水島広子著