社会不安障害の治療では、薬物療法と心理療法が二本柱になります。
その人の症状や希望に応じて、どちらか一方で治療を進めたり、様子を見ながら他方を併用したり、最初から両方を用いたりと、いろいろなパターンがあります。
最も効果的なのは、最初から両方を併用することです。
しかし、社会不安障害のような病気に薬を用いることに抵抗感を覚える人もいます。
逆に、もともと対人関係に不安を持っている社会不安障害の患者さんは、医師や臨床心理士とじっくりやりとりしなければならない心理療法に苦手意識を持っている場合もあります。
そういった希望もよく聞きながら、治療プランを立てていきます。
社会不安障害の症状を、いままで性格のせいだと思い、「心の問題」ととらえてきた人が、薬を用いることに抵抗を感じるのはわかります。
このあたりの事情は、ひと昔前のうつ病によく似ています。
うつ病も、かつては、薬で治療できる病気という印象の薄い病気でした。
「心の病」だから、心理療法こそがファーストチョイスであり、抗不安剤(精神安定剤)や睡眠薬などを対処療法(症状のみの改善を目的とした療法)的に用いるだけという時代があったのです。
しかし、さまざまな抗うつ剤が開発され、その効果が確かめられるにつれて、今では、「うつ病と診断されたら、まずは抗うつ剤」というほど、薬物療法が浸透してきました。
とりわけ「第三世代の抗うつ剤」として、日本で1999~2000年に発売された「SSRI」(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、画期的な抗うつ剤として、広く使われるようになっています。
近年、うつ病が起こるメカニズムとして、神経伝達物質の一つである「セロトニン」の働きの異常が重視されていることは、先にも述べました。
SSRIは、そのセロトニンの働きをよくする薬です。
SSRIは、そのメカニズムからいって、うつ病に対して根本治療に近い効果を示します。
それに加えて、副作用が少ないこと、精神科の薬で危惧されがちな依存性のないことなどが、広く受け入れられた理由でしょう。
実は、このように抗うつ剤として広く使われているSSRIが、社会不安障害にも効果を発揮することが、最近、明らかになってきました。
そのことから、社会不安障害もまた、セロトニンの働きの異常が深くかかわっているらしいとわかってきたのです。
欧米では、社会不安障害の患者さんに対し、SSRIが積極的に用いられて効果をあげています。
日本でも、実際の臨床で効果が確かめられています。
※参考文献:人の目が怖い「社会不安障害」を治す本 三木治 細谷紀江共著