SSRIを社会不安障害の患者さんに用いた場合、その場限りで不安症状を抑えるのではなく、「潜在不安」-つまり、症状のベースになっている不安を抑える作用を発揮します。
社会不安障害の患者さんは、人前で緊張しないでふるまえる人を見て、「あんなふうにできたらいいのになあ」と思うことが多いものです。
潜在不安を抑えるとは、いってみれば、「人前で緊張しないでふるまえる人」に近づくということです。
SSRIの効き方は個人差が大きく、思うように効果が出ない場合もありますが、効く人には非常によく効きます。
その場合、大げさではなく、人生が変わるような対人関係上の変化が見られることもあります。
ここが、抗不安剤と大きく違うところです。
ここで、SSRIの働き方について、もう少しくわしくお話ししておきましょう。
私達の脳をはじめ、全身の神経では、神経細胞同士の間で、絶え間なく情報伝達が行われています。
神経細胞同士の間は、完全につながっているのではなく、わずかな隙間があいていて、その間を神経伝達物質が行き来することで情報伝達が行われます。
一方の神経細胞から伝達物質が放出され、他方の神経細胞が受け取ることで、情報伝達が行われるのです。
たとえていえば、神経細胞同士の間を、微細な渡し船が、情報を載せて行き来しているようなものです。
その一つがセロトニンというわけです。
情報伝達物質の一部は、情報を渡し終えると、もとの神経細胞に再び取り込まれます。
うつ病の患者さんでは、この再取り込みが過剰になり、その分、情報伝達がスムーズに行われにくい状態になっているといわれています。
社会不安障害の患者さんでも、同じような不調が起こっている可能性があります。
渡し船のたとえでいえば、川を行き来する船が少ないので、乗客の運搬が滞っているような状態です。
SSRIは、その船を増やして、乗客の運搬、つまり滞っている情報伝達をスムーズにする薬です。
そのため、前述のように「根本治療に近い作用」を発揮するのです。
それが、うつ病の場合は落ち込んだ気分を引き上げる効果につながり、社会不安障害の場合は不安を減らし、過度に緊張しないようにする効果につながるというわけです。
※参考文献:人の目が怖い「社会不安障害」を治す本 三木治 細谷紀江共著