現在、最も一般的な社会不安障害の薬物療法では、SSRIをベースにしながら、必要に応じて抗不安剤をプラスします。

SSRIは、根本治療に近い働きをする半面、飲んですぐに効果がわかるような効き方はしません。

使い始めてすぐは効果が実感できず、1~2週間かけてジワジワと効いてくるのです。

一方、抗不安剤は、飲めば間もなく効果が現れ、不安感や緊張がやわらいで落ち着いてきます。

作用の仕方がまったく違うので、組み合わせて使うことで、多くのケースに対応できます。

例えば、細菌感染で発熱しているとして、とりあえず熱を下げるために飲む解熱剤が抗不安剤にあたり、細菌を退治する抗生物質がSSRIにあたります。

車のブレーキなら、キュッと利くけれども長くは使えないフットブレーキが抗不安剤に、長く使えるエンジンブレーキがSSRIにたとえられます。

そこで、不安感や緊張が強い患者さんでは、SSRIが効いてくるまでの間に抗不安剤を併用して症状をやわらげたり、会議や発表など、緊張や不安が増すイベントの前に抗不安剤を用いたりします。

SSRIは、あるとき急に効果を自覚するというより、「あれ、そういえば人前で前ほど緊張しなくなった」「以前のように不安感を抱かなくなったな」など、「ふと気がつくとよくなっている」という効き方をします。

変化は劇的とはいえませんが、いわば精神状態を「底上げ」して、不安や緊張を感じにくくしてくれるのです。

服用を続けることで、そういった安定した効果が得られるので、最初は抗不安剤を併用していても、やがてやめられる人が多いものです。

SSRIを服用して徐々に自信がついてくることで、最初はおっくうに思っていた心理療法を受け始める人も少なくありません。

社会不安障害の心理療法では、最終的に自分自身で不安感や緊張をコントロールできることをめざします。

これがうまくいくと、やがてはSSRIをやめて、セルフコントロールだけで社会不安障害を克服できるようになる人もいます。

薬を使うと、「ずっと飲まなければならないのでは」と心配する人もいますが、そんなことはありません。

まずは薬の助けを借りて、辛い症状をやわらげるのも、最初の一歩を踏み出すためには効果的な選択肢といえます。

※参考文献:人の目が怖い「社会不安障害」を治す本 三木治 細谷紀江共著