これまで、日本での対人恐怖症の受診患者のほとんどが確信型(第3群)であると報告されてきました。
これが一般人口における疫学を反映した数字かというと、異なる可能性があります。
SSRIの社会不安障害に対する臨床試験では、新聞広告により対象者を募りました。
この治験広告により来院した患者と、自ら通常の受診をした患者を比較してみました。
その結果、両群で社会不安障害の評価尺度の点数には差がなく、社会不安障害自身の重症度に差がありませんでした。
しかし、治験広告に応募した症例は通常の社会不安障害や対人恐怖症の通常型(第2群)がほとんどであったのに対し、通常の受診患者は確信型(第3群)が大多数でした。
そして特筆すべきは、治験広告群では、長年悩んでいたがもう治療法がないとあきらめていた方が多くおられました。
このように考えると、日本でも意外に社会不安障害や通常型(第2群)対人恐怖症が多いのではないかと想像されます。
現在のところ、欧米で対人恐怖症確信型(第3群)の英学調査がされたことはなく、今後の研究を待ちます。
一方、現在、通常に受診した症例のほとんどが社会不安障害の全般型であり、大うつ病性障害の生涯併存率が高く、回避性パーソナリティ障害の併存もきわめて高く、より重症例にかぎられる傾向がみられました。
一方、「軽症」例でも職業、婚姻、社交などの機能の障害は明らかで、一般への啓蒙により、「軽症」例の受診をこの点からも進めていく必要が示唆されました。
対人恐怖症と価値観
対人恐怖症の確信型(第3群)と通常型(第2群)の2群間で価値観を比較したところ、「成功、結果主義」「物質主義」「外見」「競争心」「世間体」では差がなかったが、「親子関係」は確信型(第3群)群のほうが有意に高得点でした。
親子関係、すなわち家族を大事にするというのはいかにも東アジア全般に共通の価値観です。
このように考えると、確信型(第3群)と文化背景との関連があると考えられます。
すなわち確信型(第3群)レベルの重症例では、周囲に迷惑をかけていると周囲のことを心配するか(対人恐怖症的)、自分の容姿だけにとどまるか(身体醜形障害的)の東西の差異の一因となっているとも考えられました。
このように、日本における対人恐怖症研究と欧米における社会不安障害研究は別の方向に進んできました。
SSRIによる薬物療法が可能となりつつある現在、いままで培ってきたわが国の対人恐怖症研究を放棄するのではなく、どのようにして先人達の業績を現在にあわせて発展させていくかが問われています。
※参考文献:社会不安障害治療のストラテジー 小山司著