社会不安障害の「不安」が生まれるメカニズム

「現実」の見え方は一人ひとり違う

ここで、社会不安障害に対する精神療法である認知行動療法について説明していきます。

私たちは現実を見る時、必ずしもすべて客観的に見ているわけではなく、自分なりの「フィルター」を通してものごとを見ています。
このような、自分なりのフィルターを通した現実の受け取り方のことを「認知」と呼びます。

人にはそれぞれ個性があり、感じやすさも異なるので、そうしたフィルターは一人ひとり違います。
ですから客観的には同じ現実でも、その受け取り方は一人ひとりみんな違ってきます。
とくに不安になったり落ち込んだりしている時には、何かと極端な受け取り方をしがちで、そうすると、ますます不安やゆううつな気持ちが強くなって、いつものように適切な行動がとれなくなってきます。

認知行動療法というのは、現実の受け取り方が極端にかたまってしまったときに、そのような認知を修正して、もう一度広く柔軟に現実をみられるようにし、不安やうつなどの精神症状を改善しようとする治療法のことをいいます。

社会不安障害に対する認知行動療法では、まず、不適切な考え方や思い込み・信念など、その患者さんなりの認知パターンを検証します。
そして、それを変えていく手助けをしていくのですが、そのためには、社会不安障害の患者さんが恐れていたり回避したりしている「不安な状況」に、実際に入ってもらうという行動が必要になります。

こうした行動をエクスポージャ(暴露)といいますが、恐怖を感じる状況に直面することによって、社会不安障害の患者さんは、自分が考えたり恐れたりしていることが、現実に沿ったものであるかどうかを確認することができます。
そして、そうした行動を実行しても、恐れていたようなことは起きないと体験的にわかれば、不安が弱くなっていきます。

社会不安障害の治療としての認知行動療法は、医師など専門家の指導のもとで行われますが、認知行動療法の考え方や方法は、単に治療に役立つだけでなく、私たちが日常生活のなかで感じるパフォーマンス恐怖など様々な不安を自分でコントロールするためにも役に立ちます。

参考文献:不安症を治す 大野裕著