社会不安障害のプログラム

不安のプログラムとは、社交不安の強い人が本人の苦手とする社交状況になると自動思考と呼ばれる思い込みが出てしまうというあり方です。
ひとつは自分に対する要求水準が過度に高すぎるというものです。
例えば、普段の会話や人前でのプレゼンテーションなどで一言もつかえることなくしゃべろうとすると、逆にプレッシャーになるようなことを指します。
そして、人と関わる社交状況になると自動的に条件付けされた考えがでてしまうのです。
会話の途中で黙ると他の人からばかにされるのではと思ってしまうような場合で、これを自動思考と言います。
また、そうした状況とは関係なく、いつも自分は変わっている、自分はだめである、自分は好かれないなどの誤った信念を抱いています。
こうした誤った信念が社会不安障害の症状の背景にあり、これを是正して治すのが認知療法です。

社会不安障害の人は、自分はとても神経過敏になっていて、周りの人もきっとそれに気付いているに違いないと思いこんでしまい、その誤った信念がさらに自意識過剰を強くします。

さらに、実際に我慢して社交状況に加わっても安全行動と呼ばれる、ある種の回避行動を取ってしまうことも社会不安障害が長く続く原因になります。
手が震えてグラスからこぼしてしまうのではないかという不安から両手で握り締めてしまうようなことです。
めったにこぼすわけではありませんし、多少こぼれたとしても実際にはたいしたことにはならないのにひどく恐れてしまうわけです。
また、そうして黙って座っていればかえって周囲の印象は悪くなってしまい人もあまり近づいてこなくなります。

もうひとつ社会不安障害が長期に続いてしまう原因となるのが、もしなったらという予期不安です。
全般性社会不安障害の方ですと結婚式や大きな会議があるのがわかると、四六時中その不安恐怖が頭から離れません。
悪いことばかり考えてしまいます。
いつも最悪の事態が起こることを恐れてますます自意識が過剰となり安全行動をとるようになります。
なんとかそうした場面に参加したとしても、くよくよと自分の言ったことや人からどう思われたかなどを考えて、悪かったことだけが記憶に残ってしまいます。
ある意味で間違った判断による失敗の記憶が次の同じような場面でよみがえり、不安恐怖を高めてしまうわけです。
このクラークとウェルズの認知モデルのすぐ後に出されたもうひとつの有名なモデルがレイピーとハインバーグの認知行動モデルです。
これは1997年に発表されたもので、社会不安障害では人に良い印象を与えたいという思いと、他人は自分のことをとても批判的に見ているという確信が中心にあるというものです。

この認知行動モデルでは社会不安障害の人は人と関わる状況で、まず観客から自分が見られているというイメージが心に作られます。
例えば人前で話をする状況の場合、過去の同じような場面での自分の様子や、緊張してドキドキしたり汗が出たりしている現在の状況、それから聴衆の反応や様子などからイメージが作られます。
そうなると聴衆が期待しているイメージと比較してしまい、そのギャップを気にすることになります。
ギャップが大きいと思うと不安が募り、さらに身体の症状も悪化し、結果として低い自己評価という誤った信念がでてきます。
これが悪循環を生むのです。

もちろんこの二つのモデルには共通点があり、どちらのモデルを説明してもほとんどの社会不安障害に悩む患者さんは、まさにこの通りだ、と言います。

この二つのモデルに共通する点は、どちらも本人が苦手とする場面になると、自分や周囲の人達に関する誤った信念、思い込みが自動的に頭に浮かんでしまうところです。周囲の人がそれほど本人の様子をじっくり観察しているわけではないのですが、こうした思い込みが活性化されてしまうと自分自身を周囲から見られる対象として意識しすぎてしまいます。
このためにそうした場面を避けてしまったり、自分がこう思われたいという良い印象を与えようとして、先ほど述べた安全行動と呼ばれる行動を取ってしまうわけです。
こうしたことによって、周囲の向かう方向やその時の記憶、その時の様子の解釈まで歪んでしまい、悪く受け取ってしまうのです。
このことが社会不安障害の心理の中心にある誤った信念が続いてしまう原因です。

実際にこうしたモデルが社会不安障害の患者さんたちに当てはまるのかどうかを調べた研究も数多くあり、その妥当性が支持されています。
また、これらのモデルに基づいた認知療法や認知行動療法とよばれる心理面からの治療が効果があることもわかっています。
日本でも認知療法はブームと言っていいほど関心が高まっており、徐々に認知療法を受けられる施設も増えてきています。

※参考文献:社会不安障害 田島治著