社会不安障害の方がSSRIをやめるときの注意

社会不安障害の方が半年以上の服用で十分な効果が出て症状が良くなった場合、今まで避けていた場面にでられるようになり、徐々に自信がついてきます。
一般的にはSSRIの服用で良くなっても、少なくとも1年以上はそのまま服用を続け、その後数ヵ月かけて徐々に減量して治療の終結に向かいます。

ここでどなたでも心配になるのは薬の服用をやめて社会不安障害が再発しないかということです。
これに関してはまだ十分な科学的データがありませんが、パロキセチンの服用を止めた場合、半数の方はそのまま改善した状態が続いたが、半数の方は症状がぶり返したというデータがあります。
そのため薬で良くなっても、服用をやめた後も良い状態が続くかどうかは残念ながら五分五分と最初に説明した上で、投薬を始めるようにしています。
もちろんこのデータは参加している社会不安障害の患者さんの数も非常に少ない上に、パロキセチンというSSRIは薬をへらすときに様々な症状が非常に出やすいものですので、必ずしもこれが全てではありません。

むしろフルボキサミンを中心に社会不安障害を治療している経験から言いますと、慎重に薬を減らせば、多くの場合、薬をやめても比較的良い状態が続きます。
社会不安障害を再発しない方の場合でも、服用していたときと比べれば緊張感がやや増してはいますが、治療前と比べれば格段の違いで、生活面の支障はあまりないというケースが多いようです。
もちろんこれには服用をやめてから一~二年だけでなく、数年後の経過を調べないと本当のところはわかりません。
なぜ薬の服用の中止後も良い状態が続くのかについては、心理面の恐怖条件付けが解消されることと、偏桃体を中心とした脳の不安恐怖回路の過敏性がなくなった状態が続いている可能性が考えられます。
というのはSSRIなどの薬は脳の神経細胞の働きに影響するだけでなく、長期の服用によってその形態にも変化を及ぼすことがわかっているからです。

神経細胞同士が情報のやりとりをするのがシナプスと呼ばれる部位です。
情報伝達
の受け手となる神経細胞には樹上突起と呼ばれる部分があり、この表面にはシナプスボタンという膨らみがあるのですが、SSRIなどの抗うつ薬を長期に投与しますと、この数が増えます。
したがってSSRIを長期に服用すると脳に形態的な変化が起こるのです。
これがSSRI服用後も効果が長期に持続する理由かもしれません。
そうは言いましても、一部の社会不安障害の方は服用を中止すると症状がぶり返してしまいますので、薬を徐々に減らしてやめる場合には、認知行動療法的なアプローチを社会不安障害患者本人に勉強してもらい、良い状態が持続するように努力していただきます。

※参考文献:社会不安障害 田島治著