対人関係療法は「医学モデル」をとります。
「医学モデル」とは何かというと、その人は病気であり、それは治療可能なものである、という考え方です。
対人関係療法では、人と人との間のストレスは、相手に期待している役割と現実がずれていることによる、というふうに整理します。
自分が相手に期待した通りのことをやってくれていれば、ストレスは起こらないはずだからです。
また、相手が自分に期待していることが、自分にとって無理のないことであれば、ストレスは生じないでしょう。
対人関係療法が全般に「病気」ということを強調するのは、そこに主な理由があります。
私たちは、相手が病気である(自分ではコントロールできない症状を抱えている)場合とそうでない場合に、期待することが変わるのです。
「自分の意思でコントロールできるはずだ」と考えれば、コントロールできていない相手に対してネガティブな気持ちが生じます。
それは、「自分の意思でコントロールしてほしい」という期待があり、それがみたされないからです。
でも、「本人も何とかしたいのに病気だからできないんだな」と思えば、ネガティブな気持ちどころか、気の毒だと思うものです。
このとき、相手への期待は、自分の意思でコントロールすること」ではなく、「病気であることを認め、適切な治療を受けること」になるのです。
これを専門的には「病者の役割」と呼びます。
パーソンズという人が1951年に提唱した考え方で、病気を単なる状態ではなく人とのかかわりのなかでとらえたものです。
ある人が病気であると認めるということは、その人に健康なときとは違う役割を期待するということです。
通常の社会的義務がかなりの程度免除される代わりに、治るための努力や協力をすることが期待されるでしょう。
このような「病者の役割」を、本人も周囲も共有できていれば、トラブルやストレスにはつながりにくくなります。
周囲は「病者の役割」を期待しているのに本人が「病者の役割」を引き受けずに治療をちゃんと受けない、あるいは、周囲が病気であることを認めずに健康なときのままの役割を期待し続ける、という状態では、さまざまなトラブルやストレスが起こってくるでしょう。
「なぜ前向きに考えることができないのだろう?」「なぜ皆にできることができないのだろう?」などという疑問は、すべて、「病者の役割」を認められていない証拠です。
病気の人に期待すべき役割を明確にすることで、対人関係のストレスはずいぶん減らすことができるのです。
そもそも、「病気」であるという認識は、単なる気休めのためにものではなく、医学的な根拠にもとづいています。
心の病気の場合には一般に検査で目に見える異常が分かるわけではありませんが、一連の症状が出ていて、何よりも本人や周囲が苦しんでいる、ということが「病気」の根拠になります。
また、「治る」ことも病気であることのひとつの根拠です。
社会不安障害の人は治療を求めることが少ないのですが(病気だという認識がない場合も多いですし、受診という「人とのやり取り」すら恐怖の対象になるため)、抗うつ剤も有効ですし、認知行動療法や対人関係療法も効果的です。
つまり、治療を受ければ治る病気だということです。
病気の人を病気の人として扱うことは、現実に即したことであり、また、対人関係をスムーズにする秘訣でもあるのです。
※参考文献:対人関係療法でなおす社交不安障害 水島広子著