不安は、安全確保のための感情ですので、安全かどうかがわからない状況で起こってきます。

対人関係において、安全かどうかを知るための手段は
コミュニケーションです。

コミュニケーションを通して、相手との関係における自分の位置づけがわかります。

自分が伝えたいことが伝わり、相手に受け入れられると、安心するものです。

また、相手が言っていることを理解でき、それに裏がないということがわかれば、安心につながります。

「役割期待のずれ」という観点からも、コミュニケーションは重要です。

相手への期待はきちんと伝わらないと果たしてもらえません。

役割期待がずれないということは、対人関係をコントロールできているということですが、コントロール感覚は、不安をなくしていくためのポイントです。

本来、人とのやり取りにおける不安が強い社会不安障害の人は、人一倍コミュニケーションに気を配って、安全を確認したほうがよいはずですが、実際には、社会不安障害の人は、むしろ不安を強めるコミュニケーションをしていることが多いものです。

それはもちろん、病気の性質と関係があります。

社会不安障害の人は、相手から発せられるメッセージを基本的には「相手は自分に対してネガティブな評価を下すものだ」というフィルターを通して受け取りますので、相手のメッセージを正確に理解していないことが多いのです。

また、自分への自信のなさや厳しさから、自分の言いたいこともちゃんと伝えていないことが多いのです。

よく見られるパターンには、次のようなものがあります。

言葉を使わないコミュニケーション

自分の気持ちを言葉で伝えずに、ため息をついたりにらみつけたりする、というコミュニケーションです。

言葉を使わないコミュニケーションでは、メッセージが正確に伝わりません。

ため息をつかれたりにらみつけられたりしても、相手は何が問題となっているのかすらわからないかもしれませんし、自分がどういう改善を求められているのかはまずわからないでしょう。

望んだ通りの結果につながらない可能性もそれだけ高くなります。

なお、暴力や自傷行為も「言葉を使わないコミュニケーション」です。

間接的なコミュニケーション

言葉をつかってはいても、直接的な言い方をせずに、嫌みを言ったり、遠回しな物言いをしたりしてしまうこともあります。

言いにくいことを言う場合には、間接的な言い方をした方が「角が立たない」と感じる人は多いですし、社会不安障害ではますますその傾向が強まります。

でも、言葉を使わないコミュニケーションと同じで、間接的な言い方では、伝えたいことが伝わらず、誤解につながったりします。

また、自らの社会不安を隠すために、あえて理屈っぽいコミュニケーションをする人もいます。

もちろんそういうやり方では人との親しさを深めることはできませんので、自信をつける機会もなく、社会不安が改善する機会もえられません。

さらに難しいのは、社会不安を隠そうとして攻撃的・拒絶的な姿勢をとる人です。

これは意図的にやっているというよりも、「そうなってしまう」というほうが近いのですが、男性に多く見られるパターンです。

本音を知られることの恥ずかしさへの恐怖から、相手が自分の内面を決して見ることができないように防御してしまうのです。

「私は今こわいと感じましたが、私に対して怒っているのですか?」

と指摘されて初めて、自分のコミュニケーションの効果を知った、という患者さんもいます。

自分の恐怖で頭がいっぱいであるために、自分が他人の目に「こわい」と映る、などという可能性を考えてみたこともないのです。

ぶっきらぼうに見える人が、実は内気なだけで、親しくなってみると人なつこい側面が見えてくる、などというのも、病気ではありませんが、これに類似したテーマです。

自分の言いたいことは伝わっているという思い込み

はっきりした言い方をしなくても、他人は自分の必要としていることや自分の気持ちがわかっているはずだと思い込む、というパターンです。

超能力者でもない限り、言わないことは伝わりません。

このような考え方でいると、「わかっているはずなのに、なんであんなことをするのだろう」などという不満がつのり、相手とのずれは広がるばかりです。

このパターンは、「言葉を使わないコミュニケーション」「間接的なコミュニケーション」とセットで問題になることが多いです。

つまり、あいまいなコミュニケーションしかしていないのに、相手はわかったはずだと思い込み、改善されない相手の態度を見て絶望を深める、という具合にです。

相手の言いたいことはわかっているという思い込み

社会不安障害のシラネさんは、相手のあくびを「自分の研修が平凡で退屈だというメッセージ」として受け取っていますが、シラネさんのように、相手のメッセージを理解したと思い込むというパターンは社会不安障害の人に多く見られます。

確かに、自分が相手のメッセージを正しく理解したかどうかを確かめるためには、相手に直接向き合う必要があり、それは社会不安障害の人が最も恐れることだと思います。

でも、確認したわけでもないのに相手からネガティブな評価を受けたと思い込んで暮らしていくことの大きなストレスを自覚することは大切です。

シラネさんのケースモリヨシさんのケースのやり方が参考になると思いますが、一番恐ろしい部分でなくてもよいので、相手との交流を始めることが重要です。

沈黙

怒りや不快を表現せずに沈黙してしまうというパターンです。

相手に直接怒りをぶつけるよりも沈黙したほうがまだましであると考えている人も多いと思いますが、沈黙というのはコミュニケーションの打ち切りであり、もっとも破壊的な対応であるとも言えます。

沈黙も、「自分の言いたいことは伝わっているという思い込み」とセットで用いられ、「何も言わなかったのだから私が不愉快だったことはわかっているはず」というような思い込みにつながります。

もちろん、相手が正確に理解していることはまれです。

以上を見てくると、問題のあるコミュニケーションでは、「生の」相手に向き合っていないという特徴が理解できると思います。

コミュニケーションにおいては、「生の」相手に意識を向けることがとても重要です。

そのような意識は、社会不安障害の治療のためにも役立ちます。

タロウさんのケースは留学中に社会不安障害が気にならなくなっていたというケースですが、その理由は「相手に伝えること」に意識を集中させたからだということです。

タロウさんは日本人も結局同じだという結論に達し、日本人が相手の場合のコミュニケーションにおいても「相手に伝えること」にできるだけ意識を集中させるように心掛け、社会不安を少しずつ乗り越えていきました。

※参考文献:対人関係療法でなおす社交不安障害 水島広子著