社会不安障害の「不安」に慣れるトレーニング
社会不安障害の人は避け続けていたらよくならない
社会不安障害に対する認知行動療法の重要な柱となるのが「エクスポージャ(暴露)」という治療法です。
その進め方について、これから具体的に説明します。
エクスポージャでは、社会不安障害の患者さんに、不安を感じる場面に一定時間身を置き続けてもらうことで、不安に直面しても大丈夫だという認知の変化と慣れが生じるようにします。
それによって不安を和らげ、回避行動を減らすことを目指します。
社会不安障害の患者さんは、人前にでること、とりわけ人前でのパフォーマンスに強い不安や緊張を感じます。
どのような場面で不安になるかは、ひとによってそれぞれ違いますが、会議で大事な発表をしたり、結婚披露宴でスピーチをしたりするなど、人前で話す場面は、とくに不安が強くなる状況の一つです。
そうした社会不安障害の人は、そんな場面でそれほど不安な気持ちになるのはヘンだ、不合理だとわかっていながら、それでも強い不安を感じます。
その結果、社会不安障害の人は、何かをし続けるのに強い苦痛を感じたり、ついには、そういった場面を回避したりするようになります。
社会不安障害の人は不安になるような場面を回避して逃げてしまえば、たしかに不安は一時的に軽くなるかもしれません。
しかし、そのような場面を避けてばかりいたり、いつも薬に頼ったりしていると、そうした場面で不安になるという症状は改善せずに、さらに不安が強くなることさえあります。
社会不安障害の人は「不安な気持ち」は長続きしない
エクスポージャでは、社会不安障害の患者さんに、その人が強い不安を感じる場面にあえて正面から向き合ってもらうようにします。
社会不安障害の患者さんがその時にまず大事なのは、不安な気持ちになってもそこから立ち去らないで、一定の時間その場面に身を置き続けることです。
場面や状況にもよりますが、1時間が目安とされています。
社会不安障害の方の不安な気持ちは長続きしないことがわかっています。
社会不安障害の方が強い不安を感じても、そのピークは10~15分で、その後は次第に和らいでいきます。
一定の時間、不安な場面に身を置き続けることによって、時間の経過とともに不安が次第におさまっていくのを、自分自身で実感することが大切です。(図6)
【図6 不安はどのように変化するか】
また、社会不安障害の方が一定の時間そうした場面にとどまり続けることで、不安な気持ちになっても、実際にそれほど危険なことは起こらない、恐くてもそんなに大変な事態にはならないことが、自分の実感としてわかります。
そのような経験を積み重ねて、「不安になっても耐えられる」「不安だからといって危険なわけではない」ということに気付くのがエクスポージャの目的なのです。