社会不安障害の人は思考パターンを変える

社会不安障害の人の不適切な思い込みを現実的なものに変える

ここまで、社会不安障害の人の「不安が強くなる心の動き」についてみてきました。
このような状態に対して効果的なのが認知行動療法です。
社会不安障害の人の認知行動療法の目的は次の2つです。

・社会不安障害の人の思考パターンを見直し、不適切な思い込みを現実的なものに変えていく。
・自分の思い込みが正しいかどうかを確かめるために、恐怖を感じている状況や回避している状況に実際に入り(エクスポージャ)、恐れていたことが実際に怒らないのを体験し、不安を和らげる。

ただし、認知行動療法によっても、不安が完全にきえることはありませんし、それは望ましいことでもありません。むしろ、ほどほどの不安があってこそ、気持ちのハリが出てきますし、集中して課題に取り組むことができるようにもなります。
そのことを踏まえたうえで、以下では、社会不安障害の認知行動療法のなかで、実際にどのようなことに取り組んでいくのかを説明します。

まず、不安をつよめてしまうような社会不安障害の自分の思考パターンを変える方法です。

その為には、社会不安障害の自分がどんな場面で、どのようなことを不安に感じるのか、その場合、どういった症状が出てくるのか、社会不安障害の自分のことを周囲の人たちがどのように考えていると思うのか、そうしたときに社会不安障害の自分がどんなふうに行動する傾向があるのか、といったことをかんがえるのが役に立ちます。

自分の特徴的な思考パターンがわかったら、次に、それを変えていくことを試みます。そのためには社会不安障害の自分が恐怖を感じている現実の状況に入っていって、自分の考えがどの程度あたっているのかを確認する必要があります。
これをエクスポージャ(暴露)といいます。

社会不安障害の人は絶対評価ではなく相対評価で

先ほど説明したように、私たちは、自分自身や周囲に対してある種の思い込みを持っています。
それには「自分はダメな人間だ」「自分は誰にも好かれない」「自分は変わっている」「人は他人を批判的な目で見る」「他人は信用できない」など、さまざまなものがあります。
このような思い込みを、専門的には「スキーマ」と呼びます。現実の見え方は、このスキーマによって変わってきます。たとえば「自分はダメな人間だ」という思い込みが強いと、ちょっと失敗しただけで「やっぱり私は何をやっても駄目だ」と思ってしまうでしょう。「人は他人を批判的な目で見ている」と思っていると、相手に少し厳しい表情をされただけで、「私のことを無能だと思っている」と考えてしまいます。

こうした思い込みが強いと、同じような場面に出合ったときに敏感になりすぎて、緊張したり苦しくなったり、社会不安障害の症状が出るようになったりします。
逆にいえば、こうした思い込み(スキーマ)を結果的に少しでも変えることができれば、社会不安障害のような強い不安は和らいできます。

また、スキーマを変えるには自分と他の人とを比べながら点数を付けてみるのもいい方法です。
こうした評価をする場合に私たちは、自分一人に目を向けて「絶対評価」をしてしまうことが多いのですが、そうするとどうしても、評価はきびしく、否定的になりがちです。
そこで、他の人と対比をする「相対評価」を取り入れてみるのです。
さらに、社会不安障害の人が評価をするときには、できるだけ具体的な事実に基づいて判断することが大事です。
これは認知行動療法の基本的な考え方でもあります。
判断の基準になることをまずははっきりさせて、それをもとにしながら、現実に起きていることを客観的に判断するのです。

たとえば「自分はダメな人間だ」という思いに対しては、「ダメだ」というのは具体的に何を基準に判断するのか。
また「自分の話はつまらない」と考えたときには、具体的にどのようなモノサシで「話のつまらなさ」を判断するのか。
そういったことを、具体的に書き出してみるようにします。

また、周囲の人が実際に否定的な反応をしたとしても、先ほど説明したように、自分がやった安全確保行動のために、周囲のそうした反応が引き起こされていることもあります。そういった可能性も忘れずに、なるべくいろいろな角度から見ていくようにしましょう。

参考文献:不安症を治す 大野裕著