社会不安障害へのひとつの対処法として、相手の事情を考えるという習慣をつけることが役に立っています。

社会不安障害という病気は、一見、相手のことばかり考えているように見える病気です。「相手が自分をどう見るか」ということに意識が集中しているからです。

ところが、実際の状態を見ると、その反対であることがわかります。

たとえば、自分が何かを発表しているときに、クスクス笑った人がいる、という場合。

社会不安障害であれば、「自分の話し方がどこかおかしかったのだろう」と感じる人が多いものです。

でも、実際には、その人は全く関係のないことで笑ったのかもしれません。

あるいは、確かに話を聞いて笑ったのかもしれませんが、それがそのまま「自分の話し方がどこかおかしかった」ということを意味するのではないのです。

人間にはそれぞれの事情があるもので、全ての人が適切な行動をとれるわけではありません。

社会不安障害の人は、自分はどこかおかしいと思うあまり、自分以外の人は完璧なふるまいをしているかのように思っているのですが、全くそんなことはないのです。

自分の話を聞いて相手がクスクス笑ったとしても、「自分の話し方がどこかおかしかった」という可能性だけではなく、「相手が笑うべきではないことで笑った」という可能性もあるのです。

社会人としての良識を考えれば、むしろ後者の可能性のほうが高いでしょう。

自分以外の人の不完全さを受け入れていくことも、社会不安障害からの回復につながります。

うつ病で治療を受けに来た二十代の女性フジさんは、十年近く続いている社会不安障害も持っていることがわかりました。

社会不安障害のフジさんの家族との関係を聞いていくと、虐待的な父親がいることがわかりました。

些細なことで爆発的に腹を立てられることが多く、社会不安障害のフジさんは常に「自分が父親を怒らせるようなことを何かしてしまったのではないか」ということを気にしていると言います。

このパターンは他の人間関係にもおよんでおり、人の顔色をうかがい、自分が相手を不快にさせるようなことをしていないか、ということを常に気にしていました。

フジさんの父親についてよく話を聞いていくと、不遇な育ち方をしている人であることがわかりました。

また、父親は対人関係が全般に苦手で、親しい人もおらず、仕事は続いているもののかなりのストレスになっている様子でした。

父親が爆発した最近の例を詳しく話してもらうと、父親に余裕がなくなってパニックになったときが多いということがわかってきました。

パニックになると爆発する人は多いものですが、フジさんの父親もまさにそのタイプでした。

その状況で父親がどれほど余裕を失っているかということを、社会不安障害のフジさんも理解することができました。

そして、父親が余裕のなさそうなときには距離をとる(それまでの社会不安障害のフジさんは、父親の様子がおかしくなってくると、「自分が何とかしなければ」と思ってしまい、いろいろと話しかけていました)、父親が爆発してしまったときは、「余裕がなかったのだな」という目で見て、社会不安障害のフジさんの問題として見ない、などというやり方を工夫しました。

その結果、父親との関係は驚くほど好転しました。

父親は相変わらず余裕がなくなると爆発しがちではありましたが、そんな父親から受けるストレスは大幅に減りました。

さらに、フジさんは、それ以外の人との関係の中でも同様の工夫を考えるようになりました。

フジさんの父親は「余裕がないときには不適切なふるまい方しかできない人」であったと言えます。

もちろん身近な人が爆発するということは愉快な経験ではありませんが、それを「自分が父親を怒らせるようなことを何かしてしまったのではないか」と受け止めるのではなく、「父親はそういう人だから」と受け止めることによって、ストレスのレベルも変われば、自己肯定感も変わります。

そして、父親との関係を、新たな切り口でうまくコントロールできるようになったという事実が、フジさんの自己肯定感をさらに高めました。
そのことが、それ以外の人との関係性も変えていこうという動機につながったのだと言えます。

なお、相手の事情をよく考えてみようにも詳細がわからないということもあります。

そんな時には、「怒っている人はパニックになっている人」というふうに考えてみるととても役に立ちます。

自分のことを振り返ってみても、感情的に怒ってしまうときというのは、「予定が狂った」「自分のキャパシティを超えた」というような理由によってパニックを起こしているときだとわかると思います。

フジさんの父親はそのわかりやすい例です。

感情的に怒っている人でパニックになっていない人はいない、と断言してもかまわないくらい、この原則は一般にあてはまりますので、活用してみてください。

相手がパニックになっているのだなとおもうと、「自分の問題」ではなく「相手の問題」として見ることができ、社会不安もぐっと和らぎます。

※参考文献:対人関係療法でなおす社交不安障害 水島広子著